何年ぶりのことだろう?
どこかに急いで行ったのではなく、走ることだけが目的で走ってきた。
距離にして11km。時間は1時間20分。
歩くのとさほど違いのないスピードであっても、しっかりと「走って」きた。
何よりも途中でひざが痛くなり走れなくならなかったことが嬉しかった。
道路って決して平坦ではなかった。
細かなアップダウンやデコボコ、傾き…。
風の気持ちよさ。田植えを前にした田んぼ。
ゴミが無造作に捨てられた川…。
普段、車で通り過ぎているだけでは決してわからない、色、音、匂い…。
そうした全てが何年かぶりに蘇ってきた。
2006年の11月。
それまでが、僕が「走っていた」と言える時。
マレーシアで行われたフェスピック・クアラルンプール大会に盲人マラソンチームのコーチとして参加したときまで。
それ以後は、忙しさにかまけて、伴走もすることはなくなり、いつしか走ること、いや、体を動かすことすら億劫になっていった。
どんどんと衰える体力と増加の一途をたどる体重。
「これではいかん!」と意を決して入ったジムも長続きはせず。
トレッドミルで少しは走るようになったと思いきや、膝を痛めてしまい、地面を走ることもなく時間だけが過ぎていった。
昨年の年末の入院と退院。
何よりも自分の健康の事を思った。
自分の身体は自分だけのものではないことも。
食生活でしっかりと体重を落とすようになり、歩く習慣ができてきたこともあり、今年から、ジムのマシンで歩き始めた。
ちょっとでも足に違和感があると、ビクッとなり…。
1時間はしっかりと歩けるようになると、今度は、ゆっくりとジョグをはじめた。
体重をしっかりと落とさないで地面を走ったら、すぐに膝を痛めてしまう事はよくわかっている。
仕事が終わった後に、時間があればジムに行き体を動かす、そんな毎日になった。
一歩ずつ、一歩ずつ。
ついに、シューズを買った。これまた何年ぶりのことだろう。
もちろん、レース用ではなく、トレーニング用。
そして、今日。
迷いに迷った末、外に走りに出かけた。
おそるおそる一歩、また、一歩と足を出す。
「走る姿」からほど遠い姿に、我ながら思わず苦笑いしてしまう。
5kmも行ったら戻ってこよう、そう思っていた。
でも、もう少し…。あそこの信号まで…。あのお店まで…。
という具合に距離が伸びていった。
疲れた足には、ほんのちょっとした出っ張りがつらい。
帰りは行き以上に一歩が重かった。
足下をしっかりと見つめないと、道のデコボコはわからない。
視線をあげて遠くをしっかりと見つめないと、道の上り下りやゴールは見えてこない。
そして、一歩ずつ足を進めていれば、必ず着く。
忘れていたこうした感覚が、体中に蘇ってきた。
嬉しい。ホントに嬉しい!
ちょっとずつ、「走る身体」に戻して行けたらと思う。