「気持ち悪い!」

「○○さんは、気持ちが悪い」「うっとうしいから挨拶しても無視している」

 ある人の口から出てきた言葉。
 水野は、その時、「ちょっと待って!」と言おうとして僕を見たと言う。
 僕は、その場の流れの中で、その言葉を「聞き流した」

 帰りの車の中、

「私は、『今の気持ち悪いという言葉、取り消してください』と言いたくてたまらなかった」
「でも、口を挟んでいいものか悪いものなのか、わからず黙ってしまった」
「悔しくてたまらない」
「私たちは、きちんと言うべきではなかったのか?」

 そう水野は言った。

 勿論、その場の雰囲気もあり、やりとりをしている僕の様子もわかっていたので、僕を責めるというのではなく、「きちんと言えなかった自分」への悔しさと、その言葉の根底にある、障害者への差別、偏見が悲しく、つらくてたまらなかったのだ。

 それなりの立場もあり、他への影響力もある人だからこそ、余計に許せない言葉。

 僕の息子も随分と色々な言葉を浴びせらてきた。

 …愚図! じゃま! あっちいけ! 殺すぞ!

 そうした言葉をただ浴びせられるだけで、どうすることもできなかった息子

 浴びせた側は、その言葉がどれだけ人の心をずたずたにしているのかなど、考えもしない。

 確かに、息子は周りの人の手助けを多く必要とするし、決して気が利くわけでもない。
 人のために何かをしようという思いがあって何かしても、それがまた、人に迷惑となることのほうが多い。

 だから、親は「申し訳ない」と周りに頭をさげる。
 親だって、これだけ大変な思いをしているのに、よく一緒につきあってくれている。
 何を言われても、頭をさげることしかできない親。

「気持ち悪い」…その一言に対し、その場で冷静に対応する術など僕にはなく、「流す」ことしかできなkった。

 結局、僕は言葉を飲み込んだまま、水野も一言も発することなくその場は終わった。 

 ……心が折れる。
 今までのつらい思いや、悲しかったことが、一気に押し寄せてくる。
 たまらなくつらくなり、何もかも放り出してしまいたくなる…。

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