「一昨日の夜にジョブコーチの鈴木さんから電話が掛かってきました。
内容は、A君のお母さんから電話があり、
『会社で皆から避けられて寂しく辛い思いをしている・・・。』
『辛くて明日は会社に行きたくない』
『僕は顔が怖いから皆に嫌われている・・・。整形しなければやっていけない・・・』
というような内容なのです。
何がどうなってそういう話になったのか分かりませんが、彼が皆から避けられているという、辛い気持ちになっていることは確かなのです。」
毎朝、従業員に「今日の朝礼」と題して、通信を配布しているB工場長。
その日の夜、お母さんから電話があったのは、夜の9時前だった。
内容は、上に書いたとおり。
ただし、お母さんは「久しぶりに大げんかをしてしまいました」と。
そして、
「明日、会社は休むと言ってます」
「おさむさんと、C部長に一度話を聞いてもらいたい、と言ってます」と。
電話を切ったときは既に9時を回っていた。
どうしよう? と一瞬ためらったけれど、明日の朝一番の対応を考えれば、たとえ遅くても連絡を入れた方が良いだろう、と思い、携帯に電話を入れたのだった。
B工場長は、明くる朝、一番で彼の家により、一緒に会社に連れてきた。
そして、その時に、B工場長は朝早くから、上の通信を用意したのだった。
さらに続く。
「皆さんは、近くにいれば声が聞こえ、人を身近に感じることが出来ます。しかし、まったく音のない世界にいる彼はそうした感覚が持てないのです。……」
(中略)
「……彼は目の前で話しかけられるか、触れられてから話されるかしなければ、気が付くことが難しいのです。『一緒にいる感覚が持てない』その寂しさに気が付いてあげて下さい。
彼が他人に気が付く時は、どうしても人から注意され私たちが怖い顔の時という事が多くなってしまうのです。
そうではない、通常の時にワンタッチして話しかける、それが、彼との良好なコミュニケーションの方法なのです。それを心掛けて下さい」
そして、
「優しいあなた方へのお願いです。彼に触れることからコミュニケーションを始めてください。」
と結ばれている。
耳の不自由なAさんは、今までも本当に苦労してきた。
この会社に入った当初も、そして、今でも、何度も何度もコミュニケーションの「壁」にぶつかってきた。
そのたびに、彼はその「壁」を乗り越えて、今日まで働き続けている。
彼も変わってきた。
そして、彼が変わることができたのも、他でもないB工場長の存在、それが何よりも大きい。
「コミュニケーション能力が不足するという事は、一度思い込んだことを修正することが難しいのです」
今回の通信の中にあった一文。
思わず、ドキッとした。
本当に色々なことを教えてもらえる。
これこそ、ジョブコーチという仕事の素晴らしさの一つだと思う。