「それだったら、僕たちが支援に入っている意味はないですね。それでは、失礼します」
そう言って僕は話し合いをやめて席を立とうとした。
その一言をきっかけに、それまで、拒否的な表情で次々ときつい言葉を浴びせかけてきたAさんとのやりとりが、一気に動いた。
「だったら、どうすれば、いいんですか!」「何も変わってないじゃないですか!」
その後、しばらく沈黙が続いた…。
今日は、トイレ掃除の手順が変わり、事業所の方が一緒にやってみることになっていた。
そして、手順の変更で色々としんどい思いをするだろうということが予測でき、しっかり話を聞くために、勤務時間の終了にあわせて訪問することを伝えておいた。
3時前に事業所に着いた。出会ったときの表情は、非常に硬かった。
案の定…、というわけではないが、Aさんは、色々なしんどいことをこちらにぶつけてきた。
しかし、ある程度のことは予想はできたし、少しでも気持ちが落ち着くように、とにかく話を聞いていた。
しかし、Aさんが「所詮、鈴木さんや水野さんだって、会社に言われて来てるんでしょ!」と。
この言葉に僕は切れた。そこで、最初の「それだったら…」という言葉になったのだった。
売り言葉に買い言葉。
まさしくそうだった。
Aさんの支援に関わるようになって丸三ヶ月になろうとしている。
支援開始当初のぎくしゃくした関係から、それこそ、少しずつではあっても、具体的な関わりや、事業所を交えての話、お母さんとの話、ドクターへの診察同行…。
時間の経過と共に、確実に距離が縮まって来ていることを実感していた。
終了ケース会議、さらにはフォローアップ計画のイメージがようやくついてきた、そんな矢先のことだった。
一時間以上…。
Aさんはたくさんの思いを口にした。
僕もたくさん話をした。
最後に、Aさんが言った。
「……仕事の手順が変わって不安で不安でしかたなかったんです。それで、鈴木さんや、○○さんにあたってしまったんです。本当にごめんなさい」
すーっと力が抜けていった。
僕は何度も口にした。
「けんかしたり、感情的になったりすることはあるんです。でも、それは当たり前です。大切なことは関係を修復すること、修復しようという意志があれば、修復できるんです」と。
事務所を出た後、笑いながら駐車場に二人で向かった。
「こうして、笑い会えることができたのが、一番嬉しいです。これからも意見がぶつかることはあると思いますが、それは悪いことではないと思います」と。
夕方、Aさんのお母さんから電話が入った。
「本当にありがとうございます。先ほど家に戻ってきて、鈴木さんとのやりとりを話してくれました。とことんつきあってくれてありがとうございます」
という内容の電話だった。
6年間、今の職場で頑張り続けてきたAさん。
しんどいことがあっても、そのはけ口はご家族だけだったと。
色々と困ったことがあっても、「そんなことを言っては申し訳ない」と自分の胸の中にためてためて、たくさんため込んできた。そして誰にも相談することもできずに、自分なりに考えて対処してきた。
不安がいっぱいでも、一生懸命、頑張り続けてきた。
その不安や疲れ、イライラで心が一杯になった時には、誰かに自分の感情をぶつけることしかできずにいたのだろう…。
頑張り続けてきた事に対し「すごい、よく頑張って来たよね」と心から思う。
そして、これからも頑張ろう、働き続けたいという強い意志。
そんなAさんの思いに、少しでも役に立つことができればと思う。
思いっきり感情的になってしまった気恥ずかしさはあるけれど、それ以上に、Aさんとぶつかりあえたことがホントに嬉しく思う。