「働いて良かったよ」

 A4用紙にビッシリと2枚。

「ごめんなさい、パソコンが時間がかかっちゃうので、手書きですが…」

 そう言って、育成会の就労支援委員会でご一緒しているあるお母さんが、入所施設から委託訓練、そして今はトライアル雇用にまで進んでいる娘さんのことについて、母親の思いを書き記して送ってきてくれた。

「ダウン症の娘を○○に入所させようと考えたのは、高等部の2年の頃でした。このまま福祉就労させてよいのか? この子の将来をもう一度考えていきたい。親離れするためにも、精神的にも強くなってもらいたい。
 可愛い子には旅をさせよ、を信じて、迷いに迷い親元から離すことを決めました。」

 施設と自宅は静岡県の東と西。
 距離にして150kmは離れているところ。月に一度の帰省。

 その後、育成会の就労支援委員会での関わりなどを経て、娘さんの就労について関わるようになったのだった。

 一度、僕たちが関わりのある福祉施設を借りて、3日間、娘さんの実習を行ってみた。
「色々課題はあるけれど、働けるよ!」
 その時、僕たちはそう両親に伝えた。

 とある福祉事業所から、「誰か、いないかなぁ? 一人雇用しないといけない」という相談を受けた。

 ご両親に相談した。
「どう? やってみません?」と。

 まずは、事業主委託訓練からはじめ、本人に働く意欲、意志が強くなってきたら、トライアル雇用に進んでみましょうよ、と。

 最初は、ちょっとしんどいことがあると、すぐに縮こまっていた彼女。
 そんな彼女に対して、僕たちは結構厳しく接した。
 内心では、「働きたくない。しんどいことはイヤ」と投げ出さないか、ヒヤヒヤしていたものだが…。

 それでも、僕たちが厳しく接することができたのは、お母さんやお父さんが、しっかりと彼女の事を家庭で受け止めてくれていたからに他ならない。

 お母さんに対してもそうだった。
「先に手を出すのではなく、困ることに直面させなければ!」と。

 一月、二月するうちに、彼女は確実にたくましくなっていった。
 そして委託訓練も終わる頃には、顔つきも変わってきた。

 そして、トライアル雇用。
 先日、初任給をもらったとのこと。

 お母さんからのファクスには、
 

  …先日も初給料をいただきました。
  とても嬉しそうに明細を自分で開き、喜ぶ姿に感無量でした。
  その晩の娘の言葉に主人共々涙しました。
  「みんなが私が掃除をすることを喜んでくれる。働いて良かったよ!!」

 と綴られていた。

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