先が見えずに誰もが不安を抱きながらの日々が続いています。
 ふと思い出した詩があります。「春について」という詩です。

「冬はむしろ ほんものを許すいい季節だ。」と。

 この大変な時代も、必ず「あの頃はね…」と語る日が来ます。
 その時、どんな自分であったのか、この時代の中で私たちがどう懸命に生きたかを語れるようになりたいと思います。

 この詩と出会ったのは大学時代。
 もうずっとずっと昔のことです。
 普段は思い出すこともありませんが、何かの拍子に突然、どこからともなく、その一節が浮かんできます。

 もう一度、この詩と出会った頃の自分を思い出しながら…。

『春について』     土井 大助

だれもがうたがうものはない。
今冬だということ。
冬のあとには春がくること。

 だが 君はしっているか。
 春はどんな顔をしているか。
 どんな歌をうたうのか。

すぎされば 青春はいっとき
人生だって……たぶん……
たしかに だまってたって春はくる。

  けれども そんな
  のっぺらな春の中で
  きみは泣けるか 笑えるか。

しゃんとした春を彫刻するなら
この冬の壁にノミを打たねば。
はればれと春の歌がききたいなら
まず この凍った土を掘りおこさねば。

  喜びの友情はにぎにぎしく
  つらいときの友情はみにしみる。
  冬はむしろ ほんものを許すいい季節だ。

ぼくらの この時代を
のちの世の人々は語るだろう。
だがまず ぼくら自身たっぷりと語ろう。

  どんな冬があり 春があったか。
  つらい冬のなかで春が
  どんなにけなげに燃えたか。

 そして 冬からはるにかけて
 青春も人生も けっして
 いっときなどではなかったということを。

(詩集「十年たったら」より)

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